消防士になろうと決めたのは、就職活動中のことだった。
2001年9月11日。アメリカ同時多発テロのニュースを見ていたとき、倒壊しそうなビルに向かって突入していく消防士たちの姿が目に飛び込んできた。その瞬間、「これだ」と思った。
それだけではなかった。大学生のころ、アメリカに留学していた。阪神淡路大震災が起きたのは、そのときだった。
故郷が揺れているのに、海の向こうで何もできなかった。その負い目が、ずっと心のどこかに残っていた。二つの気持ちが重なって、消防士という道を選んだ。
そして、晴れて消防士となり、初めての出動命令が下りた。
消火活動ではなく、初期救命措置での出動だった(救急隊到着までの措置)。めちゃくちゃ緊張した。現場に向かっている時、頭の中は真っ白に近かったと思う。
現場に着いて、目の前の状況を見た瞬間、最初は状況が飲み込めなかった。
「何だこれは?どういうことだ?」。
訓練では経験したことのない光景だった。「いきなりかよ……」という言葉しか浮かばなかった。
すでに亡くなられているように見えた。しかし、その場で死亡を判断できる立場ではない。だから、目の前の命を信じて心肺蘇生を続けた。
正しくできているのか。力加減はこれでいいのか。頭の中で自問しながら、それでも手を止めるわけにはいかない。
早く救急隊来てくれ、という切望と、目の前の人への一生懸命が混在していた。
救急隊が到着した瞬間、神様が来たと思った。本当にそう感じた。
結果として、その方は助からなかった。そうですか、、という気持ちだった。
人の死というものに初めて触れたはずなのに、不思議と実感が湧かなかった。それが正直なところだった。ほろ苦い、消防士デビューだった。
あの日から時間が経った今も、あの経験は自分の中に残っている。
どんな状況でも焦らず、冷静でいること。自分のベストを尽くせるように、普段から鍛錬を怠らないこと。
人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)。何が起こるかわからないから、常に備えること。そして後悔しないように、精一杯、一日一日を過ごすこと。
消防士としての経験が、今の自分をつくっており、あの日の感覚がどこかにある気がしている。
■中学生のみなさんへ
命や人生の試練は、ある日突然、目の前に現れることがある。準備ができていないまま、その瞬間はやってくる。
だからこそ、伝えたい。「その瞬間」のために、今日という日を積み重ねてほしい。
勉強も、部活も、友達との何気ない会話も。今は直接関係ないように思える一つひとつが、いつか大事な人を守る力になり、自分を支える強さになる。
今日、何か一つでいい。「少しだけ本気」を出してみてほしい。
いつもより丁寧に話す。
いつもより粘って一問多く解く。
それだけでいい。
その小さな積み重ねの先に、いざという時、後悔せずに動ける自分がいる。
塾長は今も、あの日の経験を胸に、一日一日を大切に生きている。
※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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