学生時代、はじめて塾で働いた。
下宿先から歩いて5分ほどの、中堅の個別指導塾だった。
特別な動機があったわけではない。
近かったから。
ただ、それだけのシンプルな理由だった。
担当したのは、小学3年生の女の子と、小学5年生の男の子だった。
二人とも、かわいらしい生徒だった。
ただ、授業が始まってすぐに気がついた。
「これは、勉強を教える以前の問題だ」と。
教室に来るなり、男の子は黒板に落書きを始める。
女の子は、机の上に何かを広げて遊んでいる。
学生バイトだった私は、完全に舐(な)められていた。
「塾長呼ぶよ」と言っても、「しょうがないなあ」といった顔をするだけ。
そんな日々が続いた。
◇
ある日も、あの手この手で二人を着席させようとした。
でも、言うことを聞いてくれない。
怒っても、宥(なだ)めても、何をやってもうまくいかない。
気がつけば、私はがっくりと机に突っ伏していた。
無力感とは、こういうことか。
そう思った。
そのとき、トトトと小さな足音がした。
女の子が、私のところへ近づいてきたのだ。
「お菓子あげるから、元気出して。」
キャンディーだったと思う。
小さな手から差し出された、小さなお菓子。
「優しいねえ」
そう言いながら、なんだか泣けてきた 笑。
◇
後から知ったことだが、二人とも、それぞれに私には見えていなかった事情を抱えていた。
男の子は鹿児島から東京へ引っ越してきたばかりで、なかなか新しい環境に馴染(なじ)めなかった。
上級生と殴り合いの喧嘩(けんか)をすることもあったという。
今思えば、大変な生徒たちを任されていたのだと思う。
当時の自分には、重すぎる洗礼だった 笑。
結局、その塾は長くは続かなかった。
でも、あの経験が、私の教育人生のスタートだった。
あれから何年も経った今も、手のかかる子はいる。
優等生だけが集まる教室なんて、正直、あまり面白くない。
手のかかる子ほど、かわいくもあり、やりがいもある。
そこだけは、あのころから何も変わっていないのだ。
あのキャンディー一粒が、今の私をつくったのかもしれない。
◇
■ 中学生のみなさんへ
うまくいかない日がある。
空回りする日がある。
頑張っているのに、誰にも伝わらない日がある。
そんなとき、誰かのさりげない一言や、小さな優しさが、不思議と前に進む力をくれることがあります。
あなたの周りにも、きっと、そういう瞬間がある。
どうか、見逃さないでほしい。
そして、あなた自身も、誰かが困っていたり、落ち込んでいたりするときに、そっと声をかけられる人でいてほしい。
大きなことはできなくてもいい。
「大丈夫?」
「元気出して」
そんな一言で、誰かの心が少し軽くなることがあります。
あなたの小さな優しさが、誰かにとっての「キャンディー一粒」になるかもしれません。
※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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